繁栄を科学する健幸学
求人を出しても応募が少ない。採用できても、数か月で辞めてしまう。二十人から二百人ほどの会社では、一人の欠員が売上、納期、残った社員の負担へ連鎖しやすいものです。人手不足を採用だけの問題にせず、会社の仕事の回し方として見ると、次に確かめるべきことが見えてきます。
この記事では、中小企業 人手不足 対策を検討する中小企業の経営者に向けて、状況を見直す視点と実務で試せる手順を整理します。
今回の分かれ目:視野狭窄の罠
健幸学の知見から経営場面を読む「6つの罠」のうち、今回、注意したいのは視野狭窄の罠です。視野狭窄の罠とは、目の前で最も目立つ問題だけを答えと見なし、ほかの条件を見落としてしまうことです。
欠員が出ると、社長は「人数が足りない」と認知し、「採用すれば解決する」と判断し、「求人を急ぐ」という行動を取りがちです。採用が必要な場面は、もちろんあります。しかし人数だけを見て急ぐと、仕事が止まる理由、判断が一人に集まる理由、教える時間がない理由が見えなくなります。採用しても同じ人に確認が集中し、残った社員の負担が増え、育成が後回しになる。この連鎖が、人が定着しにくくなる悪循環です。
ここが、組織を健幸な幸循環に導くか、負担が増える悪循環に陥らせるかの分かれ目です。「何人足りないか」だけでなく、「誰が休むと何が止まるか」「どの判断が共有されていないか」「どの仕事なら教えながら渡せるか」を並べて見ます。すると採用、配置、外部支援、仕事の整え方のうち、何を先に選ぶかを考えられます。
採用を急ぐと、なぜ悪循環になるのか
人手不足で本当に不足しているのは、人数だけとは限りません。役割の分担、判断の基準、引継ぎの時間が足りないことがあります。そこを整えずに経験者を一人採用しても、見積りの最終判断は社長だけ、現場の段取りは主任だけ、という状態なら、忙しさは残ります。
たとえば、従業員五十名ほどのサービス会社が営業を二人採りたいと考えていました。話を聞くと、営業が顧客へ連絡する時間を失っていた原因は、契約後の設定作業と問い合わせへの一次回答でした。この場合、経験者の営業を増やす前に、顧客情報を整える役割、手順を説明できる人、問い合わせを受ける窓口をどう置くかを比べる余地があります。
採用だけを急ぐと、新しく入った人も「誰に聞けばよいか」が分からず、教える人はさらに忙しくなります。だからこそ、求人を出す前に仕事の流れと判断の置き場所を確かめることが、採用を遠回りにしないための準備になります。
幸循環への切り替えは、仕事の止まり方を見ることから始まる
切り替えるべきなのは、採用人数を先に決めることではありません。止まる仕事、引き継げない判断、教える時間を見えるようにします。すると、すぐ採用すべき役割、外部の力を借りられる仕事、社内で引き継げる仕事を分けて考えられます。
視野狭窄の罠を避けるHOWは三つです。一つ目は、人数ではなく止まる仕事を見ること。二つ目は、採用後に任せる道筋をつくること。三つ目は、続けられる条件を現場から聞くことです。この順で確かめると、社長一人の見立てを、現場と共有できる判断材料に変えられます。
実務で役立つHOW
人手不足を採用だけで終わらせないために、次の三つを使います。いずれも、視野を人数から仕事、判断、関係へ広げるための手順です。
-
止まる仕事を書き出す。
一週間、担当者が休んだ場合に止まる業務を、顧客対応、見積り、製造、請求などの単位で並べます。たとえば、営業担当が不在でも見積書は作れるが、値引きの判断だけは社長に戻ると分かれば、採用すべきなのは単なる営業人数ではなく、判断を共有できる役割かもしれません。停止時間、代替できる人、判断を仰ぐ相手を書けば、採用、外注、標準化のどれを先にするかを考える材料になります。
-
一人前までの道筋を短く描く。
新しく入る人に、初日、三か月後、半年後に任せる仕事を仮置きします。たとえば、経理補助なら、最初は請求書の照合、三か月後には入金確認、半年後には取引先からの照会対応まで、と上司と共有します。教える人、確認する場、まだ任せない判断を明らかにすると、求人票に書く仕事と受入れ側の準備のずれを確かめられます。
-
辞めずに働ける条件を聞く。
退職者だけでなく、半年以上続く社員にも「続けられた理由」「困った時に誰へ聞けたか」を短く尋ねます。たとえば、給与だけではなく、朝礼後に五分相談できる先輩の存在が定着を支えていたなら、その関係を個人任せにしない工夫が必要です。採用広報で伝える約束と、日常の運営で守る条件を選ぶ材料になります。
三つを一度に完璧に行う必要はありません。まず一つの職種、一週間の記録から始めます。現場の見え方を持ち寄り、次に採用するのか、仕事を分けるのか、判断を共有するのかを選び直すことが、人手不足を悪循環にしない土台になります。
SHDでの実践
本稿で扱った手順は、一般的な検討の順番です。実際には、業種、組織規模、顧客との関係、資金や人員の状況によって選ぶべき一歩は異なります。御社の状況を整理し、次に確かめる事実と小さな実践を一緒に検討したい場合は、SHDへご相談ください。
社長、管理職、現場の担当者で見え方が違う場合も、その違いを急いで一つにせず、共通して確かめられる事実を並べます。御社の状況に合った優先順位を一緒に検討します。
健幸学とは
健幸学は、人が「健やかで幸せ」に生きるためのメカニズムを、人間・関係・組織・社会というつながりの中から理解し、実践へつなげようとする学びです。本稿では、特定の成果を保証する解決策ではなく、社長と現場が状況を観察し、次の一歩を選ぶための気づきとして提供しています。
経営の課題も、人、関係、仕事の流れを別々に切り離すのではなく、互いにどう影響し合っているかを見ます。異なる経験や見え方を持ち寄り、事実を確かめながら次の行動を選ぶことが、現場に合う実践を考える入口になります。

