2026.09.22

中小企業の賃上げ、原資をどうつくるか

中小企業の賃上げ、原資をどうつくるかについて、日本人の中小企業の経営者と現場社員が状況を確認している様子
健幸をデザインする SHD

繁栄を科学する健幸学

「賃上げはしたい。でも、来年も続けられるだろうか」。二十人から二百人規模の会社では、数人の採用や退職、主要顧客の発注量の変化が、人件費と資金繰りにすぐ影響します。賃上げを一度きりの発表にしないためには、金額より先に、原資がどの仕事から生まれるのかを確かめる必要があります。

この記事では、中小企業 賃上げを検討する中小企業の経営者に向けて、状況を見直す視点と実務で試せる手順を整理します。

今回の分かれ目:言行不一致の罠

健幸学の知見から経営場面を読む「6つの罠」のうち、今回、注意したいのは言行不一致の罠です。言行不一致の罠とは、「人を大切にする」と言いながら、賃上げの考え方と日々の仕事・評価・配分がつながらなくなることです。

賃上げを考える時、社長は「周囲も上げている」「採用で不利になりたくない」という認知から、「まず金額を決めよう」と判断し、全社員へ一律に伝える行動を取りがちです。この流れ自体は自然です。ただ、どの顧客や工程が利益を生み、どの改善が余力をつくったのかを確かめないままでは、社員は何を大切にすれば報われるのか分かりません。

すると、営業は売上を優先し、製造は無理な納期を抱え、事務は修正に追われます。それぞれが頑張っていても、利益を残すための協力が見えにくくなります。ここが、組織を健幸な幸循環に導くか、負担が増える悪循環に陥らせるかの分かれ目です。金額を急いで決めるのではなく、「何の価値を増やし、何のロスを減らし、その余力をどう人へ返すか」を同じ言葉で確かめるところから切り替えます。

なぜ、説明のない賃上げは悪循環につながるのか

同じ昇給でも、会社が何を見て判断したのかが分からなければ、不公平感は残ることがあります。「売上を取った人が評価されたのか」「残業で支えた部署はどうなるのか」「やり直しを減らした工夫は見てもらえたのか」。これは金額だけへの不満ではなく、会社が何を大切にするのかを知りたい問いです。

たとえば、少量・短納期の特注を長年受け続けている会社では、売上はあっても、段取り替え、確認電話、納品後の修正で現場の余力が減ることがあります。一方、仕様が安定した定期受注なら、同じ人数でも利益を残せる場合があります。この違いを見ないまま「もっと売上を上げよう」と求めると、賃上げ原資をつくる仕事より、負担の大きい仕事が増えやすくなります。

幸循環へ切り替える問い

切り替える問いは、「今年はいくら上げられるか」だけではありません。「利益を残せた仕事は何か」「余力を奪っている仕事は何か」「生まれた余力を賃金・育成・設備にどう配分するか」です。この順番なら、賃上げは単なる人件費ではなく、会社が続けたい仕事のあり方と結び付きます。

社員へすべての数字を開示する必要はありません。それでも、「値引きを減らす」「やり直しを減らす」「継続受注を増やす」といった方向と、そこで生まれた余力を人へ投資する考え方は伝えられます。言葉と日々の運用をそろえることが、言行不一致の罠を避ける第一歩です。

実務で役立つHOW

ここからの三つは、言行不一致の罠を避けるための手順です。一つ目で原資の事実を見えるようにし、二つ目で現場の仕事と分配の考え方を結び、三つ目で無理のない約束の範囲を決めます。

  1. 利益を案件・顧客・工程で見直す。

    月次損益を「良い・悪い」で終えず、粗利が残る案件と、手戻りや特急対応で利益が薄くなる案件を並べます。たとえば、売上は大きいが毎回の仕様確認に十時間かかる取引先があるなら、値上げ、仕様の標準化、受注条件の見直しを比較できます。正確な原価計算をすぐに完成させられなくても、「予定外の時間」「無償で対応した内容」「修正回数」を記録すれば十分です。賃上げ原資を売上増だけに置かず、どの改善が余力につながるかを選ぶ判断材料になります。

  2. 社員と共有する数字を三つに絞る。

    売上、粗利、やり直し時間、納期遵守率などから、現場が自分の仕事とのつながりを理解できる数字を選び、定例で共有します。たとえば製造チームなら、不良のやり直し時間と納期遅延件数を見ながら、改善で生まれた余力の使い道を話します。数字を個人の責任追及には使いません。「先月はなぜ増えたのか」「次はどこを変えられるか」と問います。会社が賃上げを何と結び付けて考えているかが伝わり、評価や投資の優先順位を対話する材料になります。

  3. 三つの資金場面で約束の範囲を確かめる。

    昇給後の人件費を、通常月、繁忙期、売上が想定より下がった月で試算します。たとえば、基本給の見直しと賞与原資を分け、設備更新の予定も重ねて見ます。三つの場面を置くと、どの前提が変われば再検討が必要かを整理できます。資金繰りに無理がない幅、利益改善が必要な幅、見直す時期が見え、社員へ説明できる約束の範囲を定めやすくなります。個別の賃金や手続きは、必要に応じて専門家にも確認します。

    三つを一度に完璧にそろえる必要はありません。四半期ごとに、当初の試算と実績の差、改善した工程、次に投資する仕事を見直します。数字の変動を隠さず、仕事と結び付く言葉で説明できれば、賃上げは会社の価値づくりを話し合う機会になります。

SHDでの実践

本稿で扱った手順は、一般的な検討の順番です。実際には、業種、組織規模、顧客との関係、資金や人員の状況によって選ぶべき一歩は異なります。御社の状況を整理し、次に確かめる事実と小さな実践を一緒に検討したい場合は、SHDへご相談ください。

社長、管理職、現場の担当者で見え方が違う場合も、その違いを急いで一つにせず、共通して確かめられる事実を並べます。御社の状況に合った優先順位を一緒に検討します。

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健幸学とは

健幸学は、人が「健やかで幸せ」に生きるためのメカニズムを、人間・関係・組織・社会というつながりの中から理解し、実践へつなげようとする学びです。本稿では、特定の成果を保証する解決策ではなく、社長と現場が状況を観察し、次の一歩を選ぶための気づきとして提供しています。

経営の課題も、人、関係、仕事の流れを別々に切り離すのではなく、互いにどう影響し合っているかを見ます。異なる経験や見え方を持ち寄り、事実を確かめながら次の行動を選ぶことが、現場に合う実践を考える入口になります。

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